たそがれ清兵衛

●たそがれ清兵衛

監督/脚本:
  • 山田洋次(『男はつらいよ』)
出演:
  • 真田広之(『ラストサムライ』)
  • 宮沢りえ(『父と暮らせば』)
  • 田中泯
  • 吹越満
  • 伊藤未希
  • 橋口恵莉奈
  • 深浦加奈子
  • 神戸浩
  • 丹波哲郎
  • 岸恵子
  • 小林稔侍
  • 大杉漣
  • 草村礼子
  • 中村梅雀
  • 嵐圭史



妻を亡くし、痴呆の母と幼い2人の娘を抱える平侍・井口清兵衛。家事や内職のため、仕事が終わる夕暮れにさっさと家路につくことから同僚は陰で《たそがれ》と呼んでいた。ある日、友人の妹であり幼なじみの朋江が清兵衛宅を訪ねてきた。彼女は夫の暴力から離縁して実家に戻っていた。身の置き場に困っていた彼女は度々清兵衛宅を手伝いにやってくるようになる。そんな中、清兵衛には藩に背いた男を討てとの藩命が下った……。


先日、録画しっぱなしだった時代劇映画をまとめて観た内の1本ですけど唯一良かった作品。きちんと映画してたのは本作だけでしたね。

清兵衛を中心に、家族、同僚、親戚、友人、幼なじみの女性、上司、全てが最後の藩命へと収束していく構成は上手いとしか言い様がないです。特に幼なじみの女性・朋江への気持ちの吐露が最後の最後まで出てこない様、対する朋江の受け答え、そして果たし合い後の身の委ね方、感情の流れの自然さには感服です。

公開当時、確か、サラリーマンが自己と重ねあわせて観ているとかなんとかワイドショー関係で言われてたと思いますが、これはそんな安っぽく括る話じゃないでしょ?(※サラリーマンが安っぽいという意味ではない)

確かに清兵衛のつつましい生活や、終盤で藩に背いた男が語る身の上など、家庭を持つサラリーマンには他人事ではないのも分からなくもないです。それに観る側が何を拠り所にするかも自由です。でも基本は、下級武士というもの、命を賭す(賭さざるをえない)侍というもの、それ自体を描いていることこそが素晴らしいのであって、そんな中年へのアピールしか出来ないような触れ込みはもったいないです。

まったくもう「時代劇の形を借りて現代人の心を描く」なんてのは当たり前の話で、時代劇に限らずSFでも何でも作劇の基本でしょ? "サラリーマン侍映画"なんて薄い内容かのように言うから、私が作品に抱いた印象は最悪だったんですからね。



単純に「感動した!」なんて作品ではないけれど、とても心にしみる映画。今更でしょうがお薦め。泣ける=良い映画と勘違いしている人にはお薦めしません。

ちなみに本作は第76回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされながら受賞に到らなかったのは、やはりこの真田広之と宮沢りえの距離感が外国人には理解できなかったからでしょうか。外国人の感性だと果たし合いに向かう前に2人は想いを遂げるものなんでしょうから。そういや『千と千尋の神隠し』でも外国人記者から「何故、最後に千とハクはキスしなかったのか?」との質問があったぐらいだもんなぁ。

そういう意味では外国映画を評価するのって難しいですよね。我々日本人だってフランス語が聞こえてきただけでオシャレと感じちゃったりしませんか?

★★★★

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